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                                (side大石)





全国大会を明日に控えた今日、手塚が戻ってきた報告をみんなの前でしている。


俺はその話を聞きながら、横にいる英二の顔を見た。


英二・・・

英二をダブルスに誘ったのは俺だった・・・『君ダブルスはやらないの?』

あの日、英二と試合をしてコンテナで会って・・・

英二が一緒にダブルスを組んでくれるって言ってくれて・・・

あれからずっとペアを組んできた。

一緒に上を目指して頑張ってきた。

全国N0.1ダブルスペア

お互い何度も口に出して、誓い合った。

だけど・・・全国行きが決まって、手塚が帰ってきた今・・・

俺はあの時の決意を実行に移そうとしている。






あの日から何度も考えた、英二の事、手塚の事・・・

一度は手塚が戻って来ても、英二とこのままダブルスを組んで試合に出る事も考えた。

手塚との約束。英二との約束。両方叶えられたら・・・そう思う事もあった。

しかしずっと気になっていた右腕の違和感は、関東大会決勝の後から本格的なものになり

このままでは英二との約束も手塚との約束も果たせない。

そう思った時に、俺の心は決まった。

 


やはり・・・これが一番いい方法なんだ。


そして手塚の話が終わり、竜崎先生が全国大会出場をかけたランキング戦を行う話を出した時に俺は行動を起こした。



「ちょっと待って下さい・・・」



俺は、手塚と全国行きのレギュラーの座をかけた試合を申しでた。

その瞬間、英二が驚いて声を上げた。



「ちょっと大石 何考えてんだよ!! 正気か!?」



しかし俺は英二の方を見ないまま手塚とコートに入り、そしてそのまま試合を始めた。

試合中、フェンスにしがみついて心配しながら試合を観ている英二が何度も目に入って

その度に自分が今してる事への不安がよぎったが、頭を振って心の中へ押し込んだ。

試合結果は・・・6−0で手塚の勝利

俺の思惑通り手塚はレギュラーに入り、俺はレギュラーから外れた。

その時点で英二との全国NO.1ダブルスペアの夢はなくなったが・・・

手塚との約束。

全国へ・・・最強のメンバー

みんなが目指す全国優勝にはこれが一番いい。

いい筈なんだ・・・












試合の後、明日の話をする為に俺と手塚は最後まで部室に残っていた。

途中まで英二が睨み付けるように待っていたが、話が長引くとみたのか部室を出て行った。



「大石。最後の調整は会場でしょう」

「・・・・」

「大石?」

「あぁ。そうだな。そうしよう」



話が終わって、着替えを済ませ、二人で部室の戸締りをする。

最後に窓を確認して、部室を出る時に手塚が話かけてきた。



「・・・大石」

「んっ?どうした手塚」

「いや・・・何でも無い。明日会場で会おう」

「あぁ。明日会場で」



俺は手塚の背中を見送りながら、小さく溜息をついた。

まだ部室から出てもいないのに、別れの挨拶をするなんて・・・

手塚にもわかっているのかも知れない・・このドアの向こうで英二が待っているだろう事。

部室を出た後も帰らずに英二が待っているだろう事。

俺は一呼吸置いてから、部室を出た。


やっぱり・・・


ドアを開けるとドアの真正面のコートフェンスに背中をもたれかけて、腕を組んだ英二が立っていた。



「どう言う事だよ大石」



そう言いながら、側に来た英二に胸倉を掴まれた。


覚悟はしていた。

何を言われても仕方が無い。

何を言われても俺が悪い。

英二の言葉はすべて受け止めよう・・・そう思っていた。

しかし胸倉を掴む英二の大きな目にはたくさんの涙が溜まっていて、それを見た瞬間に 俺の心は締め付けられる。



「どう言う事だって言ってんだよ!!」

「英二・・・すまない・・・」



英二に揺さぶられながら、なんとか動揺した心を捻じ伏せて謝罪の言葉だけを口にした。


言い訳はしない・・・俺は英二を裏切った。



「そんな事を聞いてんじゃねーよ!!さっきの試合は何なんだよ!!」

「もう・・・決めた事だから・・・」



英二は歯軋りしながら、とうとう溜めていたたくさんの涙を溢れさせた。

俺はそんな英二の顔を直視出来なかった。

今はその涙を拭ってやる事も出来ない・・・



「何が決まったって?何1人で決めてんだよ!俺達ダブルスだろ?右腕の事だって何で言わないんだよ!

俺達ずっと一緒にいたよな?なのに・・・俺の事信用してないのか?」

「そんなんじゃない!信用してない訳じゃない・・・だけど優勝を狙う為には・・・

俺の右腕じゃ駄目だ。英二の足を引っ張る。それに英二はもう誰とペアを組んでもいけるよ」



信用してない訳が無い。

英二程信頼出来るパートナーはいない・・・

だけど俺の右腕の問題は信用する、しないの問題じゃないんだ。

それに英二の今までの試合を見れば、英二がどれだけ成長しているかみんなわかっている。

俺に縛られなくても、英二なら大丈夫・・・

そう思って言った言葉は更に英二を傷つけた。



「何だよそれ・・・誰とペアを組んでもいける?俺言ったよな・・・前にちゃんと言ったよな・・・

大石とじゃなきゃもうダブルスやんないって言ったよな!!!」

「英二・・・わかってくれ・・・」

「わかる訳ねーだろ!!何の為に今まで頑張って来たんだよ!!

一緒に全国No.1ダブルスペアになるんじゃなかったのか?

お前は俺に嘘をついてたのかよ?!」

「そんなっ!!嘘じゃない!!嘘をつくわけないだろ!!だけど・・・」



言葉が続かない・・・確かに六角戦の後、英二が言っていた・・・言ってくれた。


『大石とじゃなきゃもうダブルスやんない』


俺の怪我で英二は俺以外のペアで試合に出て、それでも十分に戦って勝てたというのに

自分が本当の力を出せるのは俺とペアを組んだ時だけだって、それ以外は駄目だって言ってくれた。

凄く嬉しくて、英二の為にも早く腕を治さなければ・・・と思ったのに・・



「もういーよ!!もうわかった!!大石なんて知らない!!大石がそんな勝手に決めるんだったら・・・

俺だって勝手に決めてやる!!俺出ないからな!!明日の試合も・・・

これからも・・・ずっと試合に出ないからな・・大石の大バカヤロウ!!!」



そう言った英二は俺を思いっきり突き飛ばして、走り去った。



「英二っ!!ちょっと待てって!!」



英二に押されてバランスを崩した俺は、急いで英二を追い駆けようとしたが、俺の行く手を不二が塞いだ。



「やぁ」

「不二っ・・・悪いけど今急いでるから・・・」



今は不二を相手にしている場合じゃない。


兎に角英二を追い駆けなきゃ・・・


不二を押しのけて、英二を追い駆けようとしたが、不二に腕を掴まれた。



「英二を追い駆けるのは、僕の話を聞いてからでもいいんじゃない?」



優しい口調とは裏腹に、不二の目は鋭く開いていて俺を見据えていた。

こう言う時の不二には適わない・・・俺はその目を見て、英二を追い駆けるのを断念した。



「・・・わかった。それで何なんだ・・・?」



冷静に落ち着きを取り戻しながら不二に問いかける。

不二は俺の腕を離して、話し始めた。



「今日のアレは何?英二が怒るのも無理ないよね?」

「・・・不二にまで言われると思わなかったな」



いや・・・全く言われないとは思ってはいなかった。

不二と英二の絆を考えれば、何らかの形でいつかは言われるかも知れないとは思っていたけど・・・

こんなに早く言われるとは思っていなかった。



「そう思っていたのなら甘いよ、大石。僕は英二の事に関しても口煩く言ってきたつもりだけど・・・

今回は手塚の事も絡んでいるしね・・・」

「えっ・・・?」



不二の口から英二だけではなく、手塚の名前が出てきて言葉に詰まってしまった。


何故・・・不二が手塚の事を・・・?

考える暇も無く不二の話は続く。



「今回大石がした事が英二の為とか手塚の為とか思ってしたのなら、それは間違っている。

英二がどれだけ君とのダブルスを大切にしてきたかは大石が一番知っている筈だよね。

それに手塚のレギュラー入りに関しても、手塚なら自分で何とか出来たよ」

「不二・・・俺はそう言うつもりは・・・」

「無い・・・なんて言わせないよ。確かに右手首の怪我の事も大石がレギュラーから身を引いた原因の1つだろけど・・・

それ以上に大石の行動を左右させている想いがあるよね。

最初にも言ったけど、それは間違っているよ。

よく考えて、今まで何の為に頑張ってきたのか、何が一番大切なのか・・・」

「不二・・・」



不二の言葉が心の中に押し込んだ思いを呼び起こす。


一番大切なもの・・・・


俺は自分の右手首を見て、泣きながら走り去った英二の顔を思い出していた。



「大石。もう決まってしまった事を今更変えろって言う訳じゃないんだ・・・

ただ僕が言いたいのは、君には君にしか出来ないテニスがある事を覚えていて欲しい。

そして大切なものを見失わないで欲しいって事かな・・・

それと付け加えるなら・・・手塚の事はもう心配しなくていいって事」



不二からまた手塚の名前が出て、顔を上げて不二を見た。

不二は目を細めて微笑んでいる。

俺はさっきから気になっていた事を口にした。



「どうして不二が手塚の事を・・・?」



不二は小さく溜息をついて苦笑した。



「大石との事は手塚に聞いたよ。そして僕が言える事は、手塚には僕がいるって事かな」



手塚が不二に話した事はわかったが・・・手塚には不二がいるってどう言う事だ?

二人の間に何かあった・・・と言う事なのか?

考えあぐねていると、不二に肩を叩かれた。



「そう言う訳だから・・・大石は大石と英二の事だけ考えて行動をして・・・

じゃあまた明日。会場で・・・」

「あっ!おい不二っ!」



いきなり話を終わらせて、歩き始めた不二を呼び止めたが不二は手をひらひらさせて歩いて行く。

俺は仕方なくそのまま不二の後姿を見送った。

追い駆けて疑問をぶつけても、不二の中で話が終わっている以上答えてはくれないだろう。

遠くなる不二に校舎の影から近づく人影が見えた。

俺はその後姿に見覚えがあった・・・

そして俺はようやく不二が言った事の意味を理解した。


そう言う訳か・・・






不二が去った後、俺はいつもの場所に向けて歩き始めた。

コンテナのある丘へ

英二が何処に走って行ったかはわからない。

行ってもいないかも知れない・・・

だけどそこにいなかったとしても、俺は今あの場所にいたい。

コンテナで英二が来るのを待っていたい。

不二に問われて、自分の中に押し込めた想いが溢れ出している。



色んな事があって、全ての事に結果を出さなければ・・・

俺が出来る事は全てやらなきゃいけない・・・そう思った。


だけど・・・それは違ったんだな。


手塚はちゃんと前に進んでいる。

英二だってずっと持久力をつける為の努力をしていた。


それなのに俺は、悩んで悩みすぎて、右腕を理由に勝手にレギュラーを降りて・・・

一番大切なものを見失っていた・・・

どんな事があっても一番に守らなければならなかったのに・・・

英二・・・

俺はお前に甘えすぎていたんだと思う。

お前ならわかってくれる・・・勝手にそう決め付けて・・・逃げた。

本当に俺は大バカヤロウだ・・・

英二の事より優先する事なんてあっちゃいけなかったのに・・・

そんな事に今頃気付くなんて・・・

ホントはあの時に、あの写真の裏を見た時に気付かなければいけなかったのに・・・



英二・・・ごめん

謝っても許して貰えない様な事をしてしまったけど・・・

取り返しのつかない事をしてしまったけど・・・

俺にとって何が一番大切なのかは・・・英二にわかって貰いたい。

知っていて欲しい。




英二・・・愛してるよ






大石レギュラー落ちを私なりに考えてみたんです・・・そしたらこうなりました☆


次は英二視点へ・・・まだまだ続きます・・・

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